糖尿病が原因となって視力が低下する目の病気「糖尿病網膜症」。その症状や治療方法について西葛西・井上眼科病院の溝田淳院長に話を聞いた。
西葛西・井上眼科病院
溝田淳院長
自覚症状が少ない「糖尿病網膜症」
厚生労働省の報告では糖尿病患者とその予備軍は日本に約2000万人いるとされ、成人の5人に1人が該当する。
その糖尿病の三大合併症のひとつが「糖尿病網膜症」。糖尿病が原因で、目の奥にある網膜の細かい血管が障害され、視力が低下する病気だ。発症は糖尿病になってから数年から10年以上経過した後が多く、かなり進行するまで自覚症状がないことが特徴。
網膜は目の奥にある薄い膜で、光を感じ取る大切な役割を持っている。カメラでいうとフィルムに相当し、網膜には細胞に酸素や栄養を届けるため、多くの毛細血管が張り巡らされている。
糖尿病になると血管の中の細胞が障害され、血管が詰まるなどの血流障害を起こし、網膜の隅々まで酸素や栄養が行き渡らなくなってしまう。それを補おうと「新生血管(もろい血管)」が生えてくるが、この血管が成長と破裂を繰り返し、網膜剥離や硝子体出血など著しい視力低下や失明に至る病気を引き起こす。
治療方法は?
糖尿病網膜症の治療は、進行の悪化を防ぐことを目的に行われる。
第一の治療は「抗VEGF硝子体注射」と呼ばれるもので、眼の中に新生血管の形成を阻害する薬を注射して、網膜の浮腫を取ったり、新生血管の増殖を抑制させる治療法だ。効果は1~2カ月程度のため、再発する場合には繰り返し治療が必要になる。
その他、合併症を防ぐ「レーザー治療」や、網膜剥離や硝子体出血を発症した場合に行われる「網膜硝子体手術」がある。
内科だけでなく定期的に眼科で検診を
網膜には痛みを感じる神経がなく、一度損傷すると再生することはない。そのため、糖尿病を長期間放置すると網膜症が重症化しやすくなる。50~60代の糖尿病患者の約40%が糖尿病網膜症を合併し、緑内障と並んで失明原因の上位に位置している。
糖尿病と診断されたら、内科医の指導を受けて血糖コントロールを行うとともに、症状がなくても定期的に眼科検診を受けることが大切。