ドクターヘリでは届かない現場へ
東京ベイ・浦安市川医療センターが導入を目指していた「ラピッドカー」へのクラウドファンディングが、今年3月31日に終了した。最終的に2625万9000円もの支援が集まり、目標の1200万円を大きく上回る結果になった。
「ラピッドカー」に寄せられた想いが、地域の命を守る力に変わっていく。同センター救命救急センター長・危機管理室長の舩越拓医師に、導入の背景や役割を聞いた。
救命救急センター長・危機管理室長
舩越拓医師
「あと数分」を埋める、新しいかたちの医療
「救急車の出動は年々増えており、病院に着くまでの時間も少しずつ延びているのが現状です。通報から病院到着まで、平均で40~50分ほどかかることもあります」と舩越医師は語る。時間の遅れは、心筋梗塞や脳卒中、心停止、重いけがなどの患者にとっては命取りだ。「病院で待つだけでなく、医師が現場に行く。そうした新しいスタイルの医療が、今の都市には必要なんです」
空から現場に急行するドクターヘリもあるが、住宅が密集した浦安市・市川市・江戸川区の地域では、電線や建物の関係で着陸できる場所が限られている。そこで考えられたのが、街中を自在に走れる「ラピッドカー」だった。
ラピッドカーは「医師がやってくる車」
ラピッドカーは、乗用車を改良した医療用の車だ。患者を病院へ運ぶ救急車とはちがい、医師や看護師、救命士が乗って現場にかけつけ、応急処置を行うための車である。車内には、初期治療に必要な薬や医療機器、ポータブルの超音波検査機器などが積まれている。
救急車が到着する前に、先にラピッドカーが現場へ到着し、必要な処置を始める。そして、後から来た救急車と合流し、医師の判断で最適な病院へ搬送できる。救急車が患者を運び、ラピッドカーが「医療」を運ぶ。「それぞれの役割があるからこそ、命を守る力が広がっていくんです」
市民の願いが支えたプロジェクト
クラウドファンディングで集まった支援には、温かい応援メッセージも数多く寄せられた。「期待の大きさを感じると同時に、責任の重さも感じています。いざという時、地域にしっかりとした救急体制があれば、大きな安心につながる。そんなまちづくりの一助になれたら」と舩越医師。
現在、今年10月頃の運用開始を目指し、すでに運用している順天堂浦安病院など地域の医療機関との連携や、東京・千葉の境界地域における調整が進められている。「ラピッドカーの運用が始まったら、皆さんにお知らせしたい。引き続き見守っていただければうれしいです」と語った。